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名古屋地方裁判所 昭和63年(行ウ)42号 判決

原告

夏目正

右訴訟代理人弁護士

竹下重人

被告

名古屋中村税務署長

原田正一

右指定代理人

佐々木知子

外三名

主文

一  原告の昭和六一年分の所得税につき、被告が平成元年一二月二七日付でした再更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(被告が平成二年二月二六日付でした再々更正処分及び過少申告加算税賦課決定変更処分によって一部減額された後のもの。)のうち、総所得金額が一億五一二五万一〇一八円を、土地の譲渡等に係る事業所得金額が九三七万四六七五円をそれぞれ超えるとしてされた部分を取り消す。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇〇分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告の昭和六一年分の所得税につき、被告が平成元年一二月二七日付でした再更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(被告が平成二年二月二六日付でした再々更正処分及び過少申告加算税賦課決定変更処分によって一部減額された後のもの。以下「本件処分」という。)のうち、合計所得金額一億五七〇一万円、申告納税額四五〇七万九八〇〇円を超える部分及びこれに係る部分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告の昭和六一年分の所得税につき、原告がした確定申告及び審査請求、被告がした更正処分及び過少申告加算税賦課決定、再度の更正処分及び過少申告加算税賦課決定並びに再々度の更正処分及び過少申告加算税賦課決定変更決定並びに国税不服審判所長のした裁決の経緯は、別表一記載のとおりである。なお、原告は、国税通則法一一五条一項二号により、本件処分につき被告に対する異議申立て及びその決定並びに国税不服審判所長に対する審査請求及びその裁決を経る必要はない。

2  原告は個人で不動産業を営んでいる者であるが、本件処分は、別紙物件目録一及び二記載の土地(以下それぞれ「本件土地一」及び「本件土地二」といい、合わせて「本件土地」という。)を原告の不動産業におけるたな卸資産と認定し、この譲渡による所得を事業所得としてされたものである。

3  しかし、本件土地は、固定資産であるから、その譲渡による所得は分離譲渡所得となるべきであり、その場合の税額等は別表二の「原告の主張」欄記載のとおりである。

4  よって、本件処分のうち原告の合計所得金額一億五七〇一万円、申告納税額四五〇七万九八〇〇円を超える部分は、原告の所得を過大に認定してされたもので違法であるので、その取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3のうち、原告の主張を前提とすれば税額等の計算関係が別表二の「原告の主張」欄記載のとおりとなることは認め、その余は争う。

三  被告の主張

原告の昭和六一年分の総所得金額及び土地の譲渡等に係る事業所得金額(租税特別措置法二八条の四に基づくもの)の計算根拠は以下のとおりであり、本件処分は、これに基づいてされたものである。

1  総所得金額 一億五二三六万四三〇四円

総所得金額は、別表三記載のとおり、次の(一)、(二)及び(三)を合計し、その金額から(四)を控除した金額である。

(一) 事業所得の金額のうち土地の譲渡等に係る事業所得以外のものの金額(次の(1)から(2)を控除した金額)一億六八二七万〇九四六円

(1) 事業所得の金額 一億七七六五万〇九〇五円

事業所得の金額は、別表四記載のとおりであり、次のイからロ及びハを控除した金額である。

イ 総収入金額 四億〇五七六万五八三七円

原告の昭和六一年分所得税青色申告決算書に記載された売上(収入)金額三億九九二〇万五九五六円に別表五記載の売上計上漏れ金額六〇三万九八八一円及び別表六記載の雑収入計上漏れ金額五二万円(原告が、たな卸資産である名古屋市中川区長良町四丁目一三三番地の建物(店舗)を売却するまでの間、一時的に賃貸していた際の賃料収入の一部である。)を加算した金額である。

ロ 売上原価(次のaとbの合計額からcを控除した金額) 一億七七五八万八六一三円

a 期首商品たな卸高 二億三四一三万〇三五〇円

別表七記載の期首商品たな卸高二億三〇六〇万六三五〇円と昭和六一年分の期首(同年一月一日)における仕掛工事代金の残高三五二万四〇〇〇円との合計額である。

b 仕入金額 五億七二六五万二三七二円

別表八記載の商品仕入金額四億八一二四万八八五〇円と期中の工事代金九一四〇万三五二二円との合計額である。

c 期末商品たな卸高 六億二九一九万四一〇九円

別表九記載の期末商品たな卸高五億八六二六万七六〇九円と昭和六一年分の期末(同年一二月三一日)における仕掛工事代金の残高四二九二万六五〇〇円との合計金額である。

ハ 売上原価以外の必要経費 五〇五二万六三一九円明細は別表一〇記載のとおりである。

(2) 土地の譲渡等に係る事業所得の金額 九三七万九九五九円

内訳は後記2のとおり。

(二) 不動産所得の金額 四一万六〇〇〇円

(三) 利子所得の金額 一二三万二三二四円

(四) 前年から繰り越した純損失の金額 一七五五万四九六六円

2  土地の譲渡等に係る事業所得の金額 九三七万九九五九円

租税特別措置法二八条の四によるものであり、次の(一)から(二)及び(三)を控除したもの。

(一) 土地の譲渡等に係る事業所得金額に該当する総収入金額 一億三四一二万八〇一五円

別表一一の①欄記載のとおり土地の譲渡等に係る事業所得の対象となる取引に該当する瀬戸市西山町二丁目五七番の宅地の譲渡収入一億二九〇二万円及び本件土地二の譲渡収入五一〇万八〇一五円(昭和六一年六月二五日中村不動産に譲渡した代金一億六五六五万円のうち一九平方メートル分)の合計金額。

(二) 土地の譲渡等に係る事業所得金額に該当する売上原価(次の(1)及び(2)の合計から(3)を控除した金額)一億二二〇七万〇一六一円

(1) 土地の譲渡等に係る事業所得金額に該当する期首商品たな卸高 六五三九万七五〇〇円

別表一一の②欄記載の期首商品たな卸高六四八〇万円と同表の③欄記載の期首仕掛工事代金五九万七五〇〇円との合計金額である。

(2) 土地の譲渡等に係る事業所得金額に該当する仕入金額 九四七四万九〇〇〇円

(3) 土地の譲渡等に係る事業所得金額に該当する期末商品たな卸高 三八〇七万六三三九円

(三) 土地の譲渡等に係る事業所得金額に該当する売上原価以外の必要経費 二六七万七八九五円

前記1(一)(1)ハの売上原価以外の必要経費五〇五二万六三一九円に別表一一の⑧欄記載のとおり、事業所得の差益金額二億二八一七万七二二四円に対する土地の譲渡等に係る事業所得に該当する差益金額一二〇五万七八五四円の割合5.3パーセント(小数点四位以下切上げ)を乗じて算定した二六七万七八九五円。

3  所得控除額 一三四万五〇八〇円

四  被告の主張に対する原告の認否

被告の主張のうち、本件土地がたな卸資産であること及び本件土地一の取得価額が一六七二万一四三〇円であることは否認し、これらの事実を前提とする部分は争うが、その余の部分の金額及び計算関係はすべて認める。

なお、本件土地の譲渡による所得は、別表一二記載のとおり、譲渡所得(本件土地一については分離長期譲渡所得、本件土地二については分離短期譲渡所得)として計算されるべきであり、また、本件土地一の取得価額は、昭和四七年一一月一六日付の本件土地一の売買契約に基づき原子ユキに対して支払った売買代金一五八四万円、同日付で竹下種子に支払った三〇万円及び八田不動産に支払った四七万五二〇〇円の仲介手数料の合計七七万五二〇〇円、同日付で松浦茂に対して支払った測量費四九万三九〇〇円、並びに同年一二月二三日付で名藤建設株式会社に対して支払った造成費二〇〇万円の合計一九一〇万九一〇〇円である。したがって、別表三及び別表四記載の数値は別表一三及び別表一四記載のように訂正されるべきであり、期首商品たな卸高から本件土地につき被告が計上した二〇〇二万一四三〇円及び別表一一記載の金額中本件土地二に関する部分はいずれも削除されるべきである。

五  原告の主張

本件土地は、以下に述べるとおり、原告が自己の私的利用の目的で長期にわたって所有していたものであるから、原告の固定資産であってたな卸資産ではない。

1  原告は、昭和四七年一一月一六日に本件土地一を買受けた当時、山林であった同土地を宅地に造成して転売する予定であった。そして、同年一二月二三日名藤建設株式会社に本件土地一の造成工事を代金九四〇万円で請け負わせて手付金二〇〇万円を支払ったが、同社は、本件土地一上の立木を伐採し、木の根を除去したところで倒産し、それ以上の造成工事はされなかた。

2  原告は昭和四七年一一月に買い受けた愛知県愛知郡日進町大字浅田字平子四〇番の四五三の山林を宅地に造成し、同四八年一〇月頃右土地上に自宅を建設して入居したが、この頃から、原告は、本件土地一の所有目的を変更し、同土地上に賃貸用共同住宅を建築して安定した賃料収入を確保することを計画した。これは、本件土地一が原告の右新居のすぐ近くにあって、家族の者による管理が容易と思われたからである。

3  そこで、原告は、昭和五〇年頃、中村建設株式会社に本件土地一上に建築する共同住宅の設計を依頼し、その建築工事について相談をしたが、本件土地一の公道に面する部分が狭くて共同住宅の敷地としてあまり適切ではないことや、原告の資金繰りの都合が悪かったことから、着工には至らなかった。しかし、本件土地一の近くに地下鉄の新駅ができる予定があったので、原告は、本件土地一上には賃貸用共同住宅を建築するという計画を放棄することなく本件土地一を自用地として所有することとし、関与税理士の事務所に対しては本件土地一をたな卸資産から除外して非営業用資産とするよう指示し、本件土地に係る固定資産税は昭和五一年分以降原告の家計費から支払い、不動産業の必要経費には計上していない。なお、関与税理士の事務所で作成されたたな卸資産一覧表にその後も本件土地一が記載されていたこと、及び昭和六一年分の事業所得の決算において本件土地の売却代金を事業所得の売上げに合算したことは、いずれも同事務所の誤解に基づくものである。

4  原告は、昭和五五年一二月に本件土地二の当時の所有者からその売却の申入れを受けてこれを買い受けたが、本件土地二は本件土地一の公道に面する部分の東側に隣接する土地であったので、両土地を合わせると共同住宅の敷地として好適なものとなった。そこで、原告は、本件土地上に賃貸用共同住宅を建築するという計画を維持し、資金の調達に努めていた。

5  原告は、昭和六一年に、取引上色々と世話になっていた中村不動産株式会社から懇願されて本件土地を同社に売却するに至るまで、本件土地を商品として扱っておらず、本件土地を売却する旨の広告又は宣伝をしたこともない。

六  原告の主張に対する被告の認否

原告の主張のうち、冒頭の主張は争い、1ないし5のうち、原告が本件土地二を昭和五五年一二月に買い受けたこと、本件土地二が本件土地一の公道に面する部分に隣接していることは認め、関与税理士の事務所が作成したたな卸資産一覧表に本件土地一が記載されていたこと及び昭和六一年分の事業所得の決算において本件土地の売却代金を事業所得の売上げに合算したことが誤りであることは争い、その余の事実は不知。

七  被告の反論

以下に述べるように、原告は、本件土地をたな卸資産として取得し、所有していたものであり、かつ、本件土地が取得後にたな卸資産から固定資産に転化したとも認められないのであるから、本件土地はたな卸資産というべきものである。

1  原告は、不動産業者であり、たな卸資産をそのまま転売するだけでなく造成してから転売することも通常行っていたものであるところ、本件土地一を転売目的で一四〇八万円で買い受けた後、昭和五一年から同五二年にわたり合計二六四万一四三〇円の費用を投下して右土地を宅地に造成し、次いで同五五年に本件土地二を三三〇万円で買い受け、その後の同六一年六月二五日に至って本件土地を一億六五一六万円で売却している。そして、この間、本件土地について、いずれもたな卸資産として会計処理しており、右売却代金収入についても原告の事業所得に係る売上げとして会計処理をしてその旨の確定申告をしている。

2  原告は、本件土地を買い受けてから売却するまでの間、原告の関連会社の下請業者である瑞原土建に車の置き場所等として無料で一時的に使用させていたことがあっただけで、自ら使用したり、他に有償で継続的に貸し付けたりしたことがない。また、原告主張の共同住宅建築計画は、仮にそのようなものがあったとしても、資金運用計画も建築資金計画もなく、具体性に欠けるものであった。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1及び同2の事実、並びに被告の主張のうち本件土地がたな卸資産であること及び本件土地一の取得価額が一六七二万一四三〇円であること並びにこれらの事実を前提とする部分以外の事実及び計算関係については当事者間に争いがなく、本件の争点は、①本件土地がたな卸資産に該当するか否か、すなわち、本件土地の譲渡による所得が事業所得(被告主張)と譲渡所得(原告主張)のいずれであるか、及び②本件土地一の取得価額すなわち売上原価が一六七二万一四三〇円を上回らないと認めることができるか否か、の二点であるので、以下右争点について順次検討する。

二本件土地の譲渡による所得の性質について

1  所得税法は、資産の譲渡による所得を譲渡所得と定めた(三三条一項)上で、たな卸資産等の譲渡による所得を譲渡所得から除外している(同条二項一号)。そして、たな卸資産とは、事業所得を生ずべき事業に係る商品、製品、半製品、仕掛品、原材料その他の資産(有価証券及び山林を除く。)でたな卸をすべきものとして政令で定めるものをいうと定義されている(二条一項一六号)ので、たな卸資産の譲渡による所得は事業所得ということになる。

ところで、原告が個人で不動産業を営んでいる者であることは当事者間に争いがないところ、不動産業者がその事業の過程において客に販売する目的をもって所有する土地は、当該不動産業者にとってまさに商品の性質を有するものであるから、たな卸資産に該当し、その譲渡による所得は事業所得である。しかしながら、不動産業者の所有する土地であっても、それが販売用の土地ではなく、例えば、当該業者自身の居住用又は賃貸用の建物の敷地に供しており、あるいは現に右の用に供していなくてもこれに供する目的で取得し所有する土地である場合には、その譲渡が反復的ないし継続的に行われるものの一つでそれ自体が事業を構成したり、営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡(所得税法三三条二項一号)に該当するものでない限り、譲渡所得であると解するのが相当である。なお、土地の譲渡による所得の性質を決定するのは、当該土地の取得の時点の所有目的ではなく、譲渡を決定した時点の所有目的であるから、不動産業者が、販売用に取得した土地について、その後目的を変更して、自己の居住用又は賃貸用の建物の敷地に供しており、あるいは右の用に供する目的で所有していた場合には、その譲渡による所得は、原則として、譲渡所得となると解すべきである。

右のように、不動産業者の所有する土地の譲渡による所得が譲渡所得と事業所得のいずれに該当するかということは、当該土地が販売用のものか否かという所有の目的ないし意図によって決まるものであるが、その判断に当たっては、その土地の形状、取得及び譲渡の経緯、利用及び管理の状況等を総合して右目的ないし意図を合理的に認定することが必要である。特に、土地取得後の所有目的の変更の有無が問題となる事案については、右変更があったと主張されている時期の前後において、当該土地に係る会計処理、税務申告等や、当該土地の管理、利用、広告宣伝等の状況に変更があったかどうか、最終的にどのような経緯で当該土地が譲渡されたのか、そのほか、所有目的の変更があったことを示すどのような事実が存在するか等の事情を総合勘案し、所有目的の変更が客観的に看取できるものであったかどうかという観点から判断することが相当である。

2  これを本件についてみるに、前記の争いのない事実と証拠(〈書証番号略〉、証人関庄平、同村田善清、同北川義昭、原告本人)並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一) 原告は、昭和四七年一一月一六日に当時山林であった本件土地一を原子ユキから買い受けた(代金については後記三の1(一)参照)が、右買受け当時、本件土地一を宅地に造成して販売する予定であった。そして、原告は、同年一二月二三日、名藤建設株式会社に本件土地一の造成工事を代金九四〇万円で請け負わせてその内金二〇〇万円の支払をしたが、同社は、本件土地一上の立木の伐採、公道に面する部分付近の一部の地ならし等を行っただけで倒産し、本件土地一についてそれ以上の造成工事を行わず、残金の支払もされなかった。その後、原告は、昭和五五年一二月一三日に本件土地一に隣接する本件土地二を代金三三〇万円で浅井三市から買い受けた上、本件土地を昭和六一年六月二五日に代金一億六五一六万五〇〇〇円で中村不動産株式会社に売却したが、この間造成工事が行われた事実はなく、右売却当時、本件土地は、公道に近い方が一部平坦地となっていたが、そのほかは緩やかな傾斜地で竹藪であった。

なお、原告は、昭和六〇年頃の約一年間、一時的に、原告の関連会社である建設会社の下請業者である瑞原土建に車、重機等の置場として本件土地を無償で使用させていたことがあったが、そのほかは、本件土地を自ら使用したり、他に貸し付けたりしたことはなかった。

(二)  原告は、自分の営む不動産業の会計処理及び納税申告を税理士市川浩平の会計事務所に任せており、同事務所においては事務員の関庄平がこれを担当していた。すなわち、関は、毎月ないし二、三か月ごとに原告から渡される契約書、領収書等に基づいて入金、出金及び振替の各伝票を起こし、総勘定元帳を作成し、更に右総勘定元帳に基づいて原告の確定申告書及びこれに添付する青色申告決算書等の書類の作成を行っていた。そして、関は、毎年、右確定申告書の内容について原告に概略を説明して押印してもらった上でこれを被告に提出していた。また、原告の期末たな卸については、原告が土地の取得代金、費用等を記帳している土地取引台帳に基づき、毎年、関が期末たな卸の結果を記載したメモを作成し、原告の確認を取るという方法で行われていた。

ところで、原告が不動産を購入した場合、関は、原告が不動産業者であることから、原告が当該不動産をたな卸資産から除外してほしい旨を述べない限り、原則としてこれをたな卸資産として処理していた。そして、関は、原告が本件土地一と大体同じ頃に購入した原告肩書住所地の土地については、原告の自宅を建築する予定の土地であったため、たな卸資産には含めず固定資産として会計処理をしたのに対し、本件土地については、原告からそれが自家用であるとの説明、あるいはそれをたな卸資産から除外するようにとの指示がされなかったため、これをたな卸資産として会計処理をしており、右の処理は、原告が本件土地一及び本件土地二をそれぞれ取得した当時から本件土地を売却する時まで変わりはなかった。さらに、原告は、昭和六一年分所得税青色申告決算書においても、本件土地の譲渡による所得を事業所得に係る売上げとして処理している。

以上の事実によれば、不動産業者である原告は、本件土地一を転売目的で購入し、実際にこれをその後に購入した本件土地二とともに他の不動産業者に転売して多額の利益を得たものであり、また、本件土地はその取得から売却まで一貫してたな卸資産として会計上及び税務上の処理がされ、かつ、原告が本件土地を所有していた期間中に本件土地が原告自身によって使用されたり、一時的でなく他に貸し付けられたりしたこともなかったのであるから、本件土地は販売の目的で所有されていたものであってたな卸資産に該当すると認めるのが相当である。

3  ところで、原告は、本件土地一の所有目的が販売から同土地上に賃貸用共同住宅を建築して賃貸することに変わった旨主張し、証拠(〈書証番号略〉、証人関、同北川、原告本人)によれば、本件土地に係る固定資産税及び都市計画税は原告の自宅の方で原告の妻が家計から支払っていたこと、原告は加賀田組に本件土地上に建築するマンションの平面図及び配置図を作成してもらっていたこと、本件土地についてはその売却に関して特段の宣伝広告がされていないこと等の右主張に沿うような事実を認めることができる。

しかしながら、本件土地が一貫して原告の不動産業に係るたな卸資産として会計上及び税務上処理され、原告から所有目的の変更ないし会計処理の変更等について顧問会計事務所に指示がされていないことは前記認定のとおりであるし、原告本人尋問の結果によれば、本件土地に係る固定資産税及び都市計画税が原告の家計から支払われていたのは、本件土地が所在する日進町からの納税通知が同町内にある原告の自宅の土地建物等と一括して原告の自宅に送付されてくるので原告の妻が一括して納付していたためにすぎず、本件土地がたな卸資産とは異なるという理由によりあえて家計から支払っていたというのではないことが認められる。また、〈書証番号略〉のマンションの図面は作成者及び作成日の表示もない比較的簡易なもので、原告本人尋問の結果によれば、同図面は加賀田組に無料で作成してもらったものであり、原告は、本件土地上に賃貸用共同住宅を建設するについて建築費用の見積りを得たり、その資金調達や賃貸料収入の見通し等の計画を具体的に検討したことはなかったことが認められる。さらに、本件土地の売却のための宣伝広告がされていなかったことについては、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によば、原告は、地下鉄の新駅が開設されるなどして本件土地付近の開発が進み、その価値が上がる時期を待っていたこと、それに加えて、本件土地は比較的広い土地であるため、購買者として不動産業者等が見込まれていたことから、特段の宣伝広告をする必要性が低かったことを認めることができる。

これらの事情を総合すると、本件土地上に賃貸用共同住宅を建築するという計画は、仮にそれがあったとしても、資金的裏付けも具体的な収支見通しもない腹案程度のものでしかなく、そのほかに、原告の主張する所有目的の変更が客観的に看取できる状態であったことを認めるに足りる証拠はなく、結局、本件土地がたな卸資産であったとの前記認定を左右するに足りない。

4  以上のとおりであるから、本件土地はたな卸資産に該当し、その譲渡による所得は事業所得というべきである。

三本件土地一の売上原価について

1  事業所得の金額は、その年中の事業所得に係る総収入金額から売上原価その他の必要経費を控除して計算される(所得税法二七条二項、三七条一項)が、この売上原価は、会計上、通常は期首商品たな卸高と当期商品仕入高の合計額から期末商品たな卸高を控除して計算されるところ、たな卸資産の評価額の計算の基礎となるたな卸資産の取得価額は、別段の定めがあるものを除き、購入したたな卸資産については、当該資産の購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税その他当該資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)と、当該資産を消費し又は販売の用に供するために直接要した費用の額の合計額であると定められている(所得税法施行令一〇三条一項一号)。そこで、本件土地一に関し、その買入価額と、原告主張の購入の際の仲介手数料並びに本件土地一を販売の用に供するために直接要した造成及び測量の費用の支出の有無及び金額について検討する。

(一)  買入価額について

証拠(〈書証番号略〉、原告本人)によれば、原告が原子ユキから本件土地一を買い受けた際の売買代金は一五八四万円であり、原告は右金額を原子ユキに対して支払ったことを認めることができる。

この点に関し、被告は、一四〇八万円が原告の原子ユキに対して支払った売買代金である旨主張し、〈書証番号略〉の棚卸明細表には右金額の記載があり、証人関の証言によれば、右棚卸明細表の記載内容は期末たな卸をした結果を便せんに記載した同証人作成のメモを書き直したものであり、右メモは原告の土地取引台帳に基づいて作られたものであることを認めることができる。しかしながら、原告本人尋問の結果によれば、原告は土地取引台帳を売買契約書に基づいて作成したことを認めることができるところ、原告と原子ユキの間の本件土地一の売買契約書(〈書証番号略〉)には売買代金は一五八四万円と明記されているし、また、原告本人尋問の結果によれば、原子ユキが納めるべき税金を安く済ませられるように、仲介業者が、実際の売買代金額より低い金額を記載した契約書を原告のもとに持ち込んだことを認めることができ、他方、契約書記載の代金額から値引きがされたことをうかがわせる証拠はなく、実際に支払った金額よりも大きな金額を記載した契約書を作成する必要があったとは考えられない。そうであるとすると、右棚卸明細表の記載は、実際の金額より低い金額を記載した契約書に基づいてされたものである疑いがあり、いずれにしても、その記載が〈書証番号略〉の契約書の記載よりも信用性が高いということはできない。

(二)  仲介手数料について

原告は、仲介手数料七七万五二〇〇円を支出した旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

(三)  造成費用について

前記二の2で認定したとおり、原告は、昭和四七年一二月二三日、名藤建設株式会社に本件土地一の造成工事を代金九四〇万円で請け負わせてその内金二〇〇万円の支払をしたが、同社は、本件土地一上の立木の伐採、公道に面する部分付近の一部の地ならし等を行っただけで倒産し、本件土地一についてそれ以上の造成工事を行わなかったため、残金の支払いはされていないのであるから、本件土地一の造成費用として支出されたことが認められるのは二〇〇万円である。

なお、〈書証番号略〉の棚卸明細表には、本件土地一の昭和五一年造成費として一六五万八〇〇〇円、同五二年造成費として九八万三四三〇円という記載があるが、原告本人尋問の結果によれば、原告が本件土地一の造成のために支出したのは右の二〇〇万円だけであり、また、原告は昭和五一年及び同五二年には本件土地一の造成をしていないことを認めることができるのであるから、右各金員が本件土地一の造成費用として支出されたものと認めることはできない。

(四)  測量費について

原告は、測量費四九万三九〇〇円を支払った旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

2  したがって、本件土地一の取得価額は買入価額一五八四万円と造成費二〇〇万円の合計額一七八四万円であり、本件土地一の譲渡による所得に係る売上原価は右同額と認めるのが相当である。

四所得金額

以上のとおりであるから、原告の昭和六一年分の総所得金額及び土地の譲渡等に係る事業所得金額(租税特別措置法二八条の四に基づくもの)は、次のとおりである。

1  土地の譲渡等に係る事業所得金額

前記認定のとおり本件土地二がたな卸資産であることを前提にすると、別表一一のうち、及び欄の各①ないし⑧欄については同表の記載のとおりであるが、土地の譲渡等に係る事業所得に対応する売上原価以外の必要経費については検討が必要である。すなわち、原告の同年分の売上原価以外の必要経費の金額が全体で五〇五二万六三一九円でその明細が別表一〇記載のとおりであることは当事者間に争いがないが、このうちどれだけの費用が土地の譲渡等に係る事業所得に関する必要経費であるかを個別に分別することは実際上不可能であるから、これを合理的な方法によってあん分して計算することが相当であるところ、売上原価以外の必要経費全体のうち土地の譲渡等に係る事業所得に対応する部分が占める割合は、事業所得金額に関する差益金額全体のうちに土地の譲渡等に係る事業所得に関する差益金額が占める割合と同等と解することができるから、次の計算式によって土地の譲渡等に係る事業所得に対応する売上原価以外の必要経費を算出することが相当である。

(土地の讓渡等に係る事業所得に対応する売上原価以外の必要経費)

=(売上原価以外の必要経費)×

(土地の讓渡等に係る事業所得の差益金額/事業所得の差益金額)

そして、別表一一の(事業所得の金額)のうち、②期首商品たな卸高及び⑦差引原価がそれぞれ前記の一一一万八五七〇円の差額分だけ加算されて二億三一七二万四九二〇円及び一億七八七〇万七一八三円となり、⑧差益金額は逆に右差額分だけ差し引かれた二億二七〇五万八六五四円となるのであるから、この差益金額等を前記計算式に代入すると、次のとおり、土地の譲渡等に係る事業所得金額に対応する売上原価以外の必要経費は二六八万三一七九円となる。

(土地の讓渡等に係る事業所得に対応する売上原価以外の必要経費)

=50,526,319円×12,057,854円/227,058,654円

=2,683,179円(1円未満切上げ)

したがって、土地の譲渡等に係る事業所得金額は、売上高一億三四一二万八〇一五円から差引原価一億二二〇七万〇一六一円及び右の土地の譲渡等に係る事業所得金額に対応する売上原価以外の必要経費二六八万三一七九円を控除した残額九三七万四六七五円である。

2  総所得金額

総所得金額は、事業所得の金額のうち土地の譲渡等に係る事業所得以外のものの金額、不動産所得金額及び利子所得金額の合計額から、前年から繰り越した純損失の金額を差し引いて算出すべきものであるところ、前記一のとおり、原告の昭和六一年分の不動産所得の金額が四一万六〇〇〇円であること、同利子所得金額が一二三万二三二四円であること、及び同前年から繰り越した純損失の金額が一七五五万四九六六円であることは、いずれも当事者間に争いがない。そして、事業所得の金額のうち土地の譲渡等に係る事業所得以外のものの金額は、事業所得の金額から土地の譲渡等に係る事業所得の金額を差し引いたものであるところ、事業所得の金額については、前記のとおり、本件土地のたな卸資産該当性及び本件土地一の取得価額に関する部分以外は当事者間に争いがないのであるから、被告主張の事業所得金額一億七七六五万〇九〇五円から本件土地一の取得価額一七八四万円と被告の主張に係る本件土地一の取得価額一六七二万一四三〇円の差額である一一一万八五七〇円を差し引いた一億七六五三万二三三五円が事業所得金額である。そして、前記1のとおり土地の譲渡等に係る事業所得金額は九三七万四六七五円であるから、事業所得の金額のうち土地の譲渡等に係る事業所得以外のものの金額は、その差額の一億六七一五万七六六〇円であり、総所得金額は、これに前記の不動産所得金額四一万六〇〇〇円及び利子所得金額一二三万二三二四円を加えて繰越純損失額一七五五万四九六六円を差し引いた残額一億五一二五万一〇一八円である。

別表1

課税処分の経緯

(単位円)

区分

年月日

総所得金額

土地の譲渡等に

かかる

事業所得金額

所得税

過少申告加算税

確定申告

昭62.3.16

3,246,331

0

△11,962

(源泉所得税の

還付金額)

0

更正処分及び

賦課決定

昭62.7.9

160,206,463

0

99,034,700

9,879,000

審査請求

昭62.9.2

151,895,563

0

41,885,900

4,214,000

裁決

昭63.9.19

更正処分及び

賦課決定

平元.12.27

204,190,567

5,599,285

134,134,700

3,510,000

更正処分及び

賦課決定変更

平2.2.26

152,364,304

9,379,959

△33,367,600

△3,337,000

五以上のとおりであるから、本件処分は、総所得金額が一億五一二五万一〇一八円、土地の譲渡等に係る事業所得金額が九三七万四六七五円をそれぞれ超えるとしてされた部分について原告の所得金額を過大に認定したものとして取消しを免れない。

よって、原告の請求を右の限度で認容し、その余は棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民訴法八九条、九二条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官瀬戸正義 裁判官杉原則彦 裁判官後藤博)

別紙物件目録

一 所在 愛知郡日進町大字浅田字茶園

地番 壱四番の弐

地目 山林

地積 壱参七四平方メートル

二 所在 愛知郡日進町大字浅田字茶園

地番 壱番ノ弐参

地目 山林(昭和六二年六月九日地目変更前)

地積 壱九平方メートル(同月二五日壱四番弐を合筆前)

別紙二ないし一四〈省略〉

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